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02.彼がそれを望むなら。
大都会の景色はすぐに変わっていく。
僕が居なかったたった数日の間に、駅前でビルが一つ壊されていた。そしてまた1つ新しいビルが建てられようとしていた。
僕が職場に戻ってきてまずしたことは、部下や上司、技術屋さんたちと沢山コミュニケーションをとってメモを取ることだった。手帳がパンパンになるまでメモを取り、頭が痛くなるほど話をした。
最初は誰もが疑心暗鬼になっていて頑なだったけれど、僕が辛抱強く努力していると知って次第に心をひらいてくれた。僕が馬鹿正直に『僕には経営の才能はないけれど、誰かを支えることがしたい。』と朝礼で言ったせいかもしれない。
ギスギスしていた職場は長い時間をかけて、少しずつ変わっていった。僕自身が変わったからそう思えるだけかもしれないけれど、僕は頑張った。そのうち、雑談もできるようになった。それだけでも大きな進歩だと思う。
「なんか、羽冠さん変わりましたよね。」
最近よく話しかけてくれるようになった陽気な部下がコーヒーを飲みながらフランクに笑う。
「シックザールっていいところなんですか? あそこに行くようになってからからめっちゃイキイキしてるじゃないですか。」
「もちろんいいところだよ。アクセスは最悪だけど。ガソリンスタンドにガソリンしか無いところとか、本当に最高。」
「えー! 電気スタンドは?」
「いやあ、あそこはガソリンしか入れられないんだよ。」
「ひええ……海野先生、そんなところに住んでるんですねえ~。」
休憩中の部下たちのほうぼうからそんな悲鳴が聞こえてくる。
「そういえば、海野先生って電気屋さんやってるんでしたっけ?」
「そう。でも今は休暇中なんだって。」
「あ、あの噂ってホントなんですか?!」
噂? と聞くと全員がこちらを見つめてきた。
「海野藻草先生とうちの会長がまたタッグ組んでなにか出すかもって噂ですよ!」
「伝説の再来っていうやつですよね~!」
はあ、そんな噂があったのか。
「なんだ、教えてくれたら良いのになあ。」
「絶対うちも噛ませてもらいましょうよ、ね?! 海野先生の大復活ですよ!」
僕は苦笑いをする。
「海野先生が望むなら、ね。」
そこで、僕の連絡用端末がぴろりと鳴った。
「あ、父さんからだ。」
持っていたタブレットの方で連絡を確認した僕は、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになって咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
僕はむせながら思わず笑っていた。コーヒーを飲み下し、そしてまた笑う。部下たちがびっくりするので、自分のタブレットを見せた。
「あらら、これは、」
父さんからのメッセージには画像が添付されていた。父さんと藻草さんは、休暇でどこかの海に居るらしい。父さんはものすごい柄のアロハシャツを着ていて陽気にグラスを掲げており、そのそばで控えめに、恥ずかしそうに藻草さんがピースしている。
「わはは、いい写真じゃないっすか~!」
「楽しそうですね、海いいなあ~。」
僕は写真を保存しながら苦笑した。
「また、藻草さんの小説……読めるといいな。」
了
