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04.約束
それから、どれくらい僕らはそうしていただろう。
銃声を聞きつけたサツキさんが走ってきて、町の人も僕らを見て大騒ぎしだした。
やがて僕らはすぐに事態を察知したらしい町長さんに町役場に呼び出され、特に父さんは町中の、しかも国立公園なんかにライフル弾を持ち出すなんて、と町長さんにしっかり怒られていた。町長さんは年配だったが言うことはしっかり言う人らしかった。
父さんは、ちゃんと申し訳ございませんでした。と頭を下げた。それから、うちの倅のことも、大変お世話になりまして、と慇懃に挨拶をしていた。僕はそんな誠実な父さんを久しぶりに見た。それから、僕もまた頭を下げた。
町長さんは、言うべきことだけ言ったらあっさりと僕らを解放してくれた。
僕には「またいつでも遊びにいらっしゃい。」と言ってくれた。はい、と僕は静かに頷く。
それから、少しのタイムラグがあった。
やっぱり、明日には帰らなきゃいけないと父さんの秘書は言った。カンパニーはやるとなったら準備が早い。無情なまでに仕事が早い。
午後。あんな騒ぎがあった後だけど挨拶まわりくらいはしようと、僕はイーファンと街に出た。 パン屋のおかみさんはもう話を知っていて、僕らにパンをどっさり持たせてくれた。売れ残りだから気にしないでいいよ! と言いつつも中身は焼き立てだった。僕の噂はとっくに町中に知れ渡っていたらしい。おかみさんは「向こうでも元気だしなね。」励ましてくれた。
スーパーの店主さんのところにも買い物に行った。相変わらずぶっきらぼうだったが挨拶を聞いてくれ、……さみしくなるな。と言ってくれた。
「……そうか、帰るのか。」
最後に、診療所に挨拶に行った。創作団の団長は寂しそうだった。
「まあ、最後に面白いものを見せてもらったよ。」
「見てたの?」
「ここからよく見えるからな。」
「恥ずかしいなあ……。」
時刻はそろそろ夕方になりそうだった。そろそろ締めますよと看護師さんが声をかけてくれる。
「じゃあ、もう行かないと。」
「おう。」
「君は、まだここに居なきゃいけないの?」
「ああ、まだ傷が治ってないし……とは言っても俺には行くところもないけどな。」
僕は足を止めた。そしてにやーっとしながら振り返る。
「そういえば、まだドッカーンってやられた時のお詫びをされてないなあ?」
「えっ、おいやめろよっ、もう無一文なんだから!」
「僕のスーツケース、高級品なんだよね、」
「な、なんだよ、もう何も出ねえぞ、」
僕は彼にずずいと寄っていく。
「わー、なんだよぉ!?」
「僕には、参謀が必要だって?」
彼はびっくりして凍りついてしまう。
「……ええー?!」
創作団の団長、いや元団長か。はベッドの上でひっくりかえりそうになっていた。
海野家に戻ったら、父さんと藻草さんが玄関で話をしていた。
たどたどしく、だが親しそうに、噛み締めるように語り合っている。
入ればいいのに。と言いそうになって、もうすっかり実家気分だなと心で苦笑いする。
後ろから、サツキさんとクリス氏が勤務先から帰ってきた。
「おかえりんこー!」
「それやめてよサっちゃん。ただいまだろ。」
「そうだった! あはは!」
藻草さん、クリス氏、サツキさん、僕とイーファン、あと父さん。いびつなみんなが集まって、一つの家族になったような気がした。だけど僕は、明日帰らなくちゃいけない。
「……じゃあ、私はこれで。」
「ご飯、食べていかないんですか……?」
藻草さんにしょんぼりとそう言われ、う、と父さんが立ちどまる。
「あなたの分もその……作るつもりで……今日は、ハンバーグなんですけど……。」
藻草さんがなんかもじもじしながらそう言うんだけれど、父さんも矜持ってものがあるらしく、なぜか僕の方を見る。僕は素直につぶやく。
「藻草さんの料理、美味しいよ。」
うぅ、と父さんは口ごもり、
「知ってる……。」
と口走る。そして観念した。
「頂いていっても……いいかな……。」
そう父さんがやっと言うので、僕らはさっさと家の中に退散した。
その晩は賑やかな食事になった。
父さんは『藻草の手料理食べるの、久しぶり。』と言いながら美味しそうに料理を噛み締めていた。それから僕らは諸々お風呂やシャワーを済ませ、僕とイーファン、クリス氏とサツキさんはサツキさんの部屋で思いっきりボードゲームをした。そうしたらサツキさんが大負けして、サツキさんが枕をクリス氏に投げて、年甲斐もなくみんなして枕投げをしていたら藻草さんに叱られて……。あっという間に眠る時間になってしまった。久しぶりに本当に楽しい夜だった。
トイレのために階下に降りていくと、玄関の扉が少し開いていて、藻草さんのサンダルが無かった。僕は裸足にパジャマとカーデガンで靴を履いて外に出た。
月が綺麗な夜、藻草さんは一人空をながめていた。僕に気づくと彼は笑いかけてくれた。
「風邪ひきますよ。」
「ちょっと、外の空気に当たりたくて……。光さんのおかげですね。」
ええ? 僕がそういうと、藻草さんは微笑んだ。
「静さんと仲直りできて良かった。」
そ、そうですか……。とか言って照れていると、藻草さんは風に吹かれてばらりとなった僕の髪を優しく直してくれる。子供にやるように優しい手つきで。
「いつでも帰ってきてくださいね。お盆でも正月でも、クリスマスでも……。みんな待ってますから。」
「……いいの?」
「私がそうしてほしいんです。……だめですか?」
「……ううん、だめじゃない。……ありがとう。」
つづく
